2016年8月7日日曜日

ネット中傷訴訟の判決全文

 ツイッターで植村隆さんの娘さんを誹謗中傷した男性に対し、170万円の損害賠償金支払いを命じた東京地裁判決(8月3日)の全文を、以下に掲載します。(■部分の固有名詞は不掲載)
 判決は、「実名、学校名、写真を掲載された当時17歳の高校生にとって、恐怖と不安は耐え難いものであったと考えられ、精神的損害を慰藉するには200万円が相当というべき」と断じています。
 判決についての記事「植村さん家族、全面勝訴!」は当ブログ8月3日付に掲載ずみです。

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平成28年(ワ)第5885号 損害賠償請求事件

判   決

原告 植村■

同訴訟代理人弁護士 坂口徳雄
同             西岡弘之
同             廣田智子
同             大西啓文
同             出口裕規
同             斎藤悠貴

      被告 

主   文

1 被告は、原告に対し、170万円及びこれに対する平成26年9月8日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。


事   実

第1 当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨
  主文と同旨。

2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする


第2 当事者の主張

 1 請求原因

(1)被告は、平成26年9月8日、インターネット上のサービスであるツイッターにおいて、原告の写真を掲載し、「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘、2年植村が、高校生平和大使に選ばれた。詐欺師の祖母、反日韓国人の母親、反日捏造工作員の父親に育てられた超反日サラブレッド。将来必ず日本に仇なす存在になるだろう。」との投稿をした(以下「本件投稿」という。)、
 本件投稿は、原告の親族に犯罪者や日本を害する思想を有する者がおり、原告自身も将来日本を害する存在になる人物であるとの事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害するものである。
 また、本件投稿は、原告の父が元朝日新聞記者の植村隆であること、原告の氏名、所属する高校名及び学年を原告の容姿が写った写真とともに明らかにするものであるところ、これらは、原告の私事に関する事実であり、原告の立場に立たされた一般人において公開を望まない事柄である、特に、原告の父は、かつて作成した記事により、不特定多数の者から脅迫等を受け、インターネット上の書き込みの中には、家族への攻撃を示唆するものも多数存在したのであり、本件投稿により、原告の生命及び身体に危険が生じる可能性があるから、原告の立場に立たされた一般人において絶対に公開を望まない事柄を摘示したものといえる。したがって、本件投稿は、原告のプライバシー権を侵害するものである。
さらに、本件投稿は、原告の容貌が写った写真を添付して行われているところ、これは、原告の意に反し、原告の容貌及び姿態をみだりに公表するものであるから、原告の肖像権を侵害する。
 
(2)本件投稿による損害の発生
 ア 精神的損害
 本件投稿は、原告の社会的評価を低下させ、同人の父に対するバッシングなどの攻撃が原告に及ぶことを意図してされたものであること、不特定多数の者に容易に閲覧され、伝播性が強いインターネット上のツィッターにおいてされたものであること及び原告の写真や所属する学校名や学年を特定してされたものであることなどに照らせば、本件投稿当時17歳の高校生であった原告の恐怖及び不安は耐え難いものであり、原告の精神的損害は300万円を下らない。
イ 鯛査費用及び弁護士費用
(ア)訴外ツィッターインクに対する発信者情報開示の仮処分に関する弁護士費用 20万円
(イ)訴外ツィッターインクに対する発信者情報開示の仮処分に関ずる翻訳費用 20万円
(ウ)経由プロバイダに対する発信者情報開示手続に関する弁護士費用 20万円
(エ)本件訴訟の弁護士費用 10万円

(3)よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、一部請求として、精神的損害300万円のうち100万円及びその他の損害70万円の合計170万円並びにこれに対する不法行為の日である平成26年9月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否
 認める。
 本件投稿を行ったこと、その違法性及び損害額については争わない。ただし、本件投稿のみが原因で原告の生命及び身体に対する危険が増加したわけではない。


理   由

1 請求原因に争いはなく、本件投稿が、原告のプライバシーや肖像権を侵害する違法なものであることは明らかである。
2 損害額についても当事者間に争いがないが、精神的損害の額については、弁論主義の適用がないことから、この点について、以下検討する。
 証拠(甲2及び甲3)によれば、原告の父は、平成26年2月頃から、自身が執筆した従軍慰安婦に関する記事がねつ造であるなどとして、不特定多数の者からバッシングを受け、同年5月頃には、生命に危害を加える旨の脅迫状が勤務先に送付されてきたこと及び家族に対する攻撃を示唆するインターネット上の書き込みも多数存在していたことが認められる。このような状況下において、被告は、原告について、「朝日新聞従軍慰安婦捏造の植村隆の娘」と記載した上で、原告の容姿が写った写真とともに、原告の氏名、通学先の高校名及び学年を摘示して原告の特定が容易にされるようにしたものであり、また、原告の父がその仕事上した行為に対する反感から未成年の娘に対する人格攻撃をしたものであって、その行為態様は、悪質で違法性が高いものというべきである。
 そして、上記各情報による原告の特定可能性の高さや、ツイッター利用による伝搬可能性の高さからすれば、本件投稿がされた当時17歳の高校生であった原告の恐怖及び不安は耐え難いものであったと考えられる。さらに、本件投稿自体は削除されたものの、平成28年6月16日の時点においても、本件投稿をスクリーンショットによって撮影した画像がインターネット上に残存しており(甲18及び甲19)、本件投稿による権利侵害の状態が継続していると認められること等、本件に顕れた事情に照らすと、本件投稿によって被った原告の精神的損害を慰藉するには、200万円が相当というべきである。

3 結論
以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第24部

裁判長裁判官 朝倉佳秀
     裁判官 奥田大助
     裁判官 佐々木康平

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