2017年9月17日日曜日

東京第10回の案内

東京訴訟の第10回口頭弁論と報告集会は
10月11日(金)に開かれます。
報告集会では、日本報道検証機構代表理事の楊井人文さん(弁護士)が「フェイクニュースにどう向き合うか」と題して講演します。


2017年9月10日日曜日

10.13札幌報告集会

植村裁判札幌訴訟報告集会は1013日も開催します

10月13日に予定されていた札幌訴訟第10回口頭弁論が進行協議(非公開)に切り替わり、この日の口頭弁論はなくなりました。これに伴い、傍聴もなくなりましたが、裁判報告集会は開催時間を変更して予定通り開催します。会場と講演には変更はありません。
▽10月13日(金)午後6時半から(開場午後6時)
▽高教組会館(北海道高等学校教職員センター)4階ホール(中央区大通西12丁目、電話011-271-3627)
▽弁護団報告(進行協議について)+植村さんのお話し
▽講演 高嶋伸欣・琉球大名誉教授(著書に「教科書はこう書き直された」「教育勅語と学校教育」「拉致問題で歪む日本の民主主義など多数)
▽演題「1981年から取り組み始めた慰安婦問題の学習――明治以来の『脱亜入欧』の差別的アジア認識の払拭をめざして」

2017年9月8日金曜日

第9回札幌訴訟速報

決定! 証人尋問を来年2月16日に実施

札幌訴訟第9回口頭弁論は9月8日、札幌地裁803号法廷で開かれた。
前回までに論点はほぼ整理され、双方の主張は出尽くしていたため、この日は今後の進め方について双方で意見が交わされた。その結果、岡山忠弘裁判長は、次回弁論を来年2月16日(金)に開き、証人尋問を行うことを決めた。10月に設定されていた口頭弁論は取りやめとなった。証人尋問の輪郭も明らかになった。原告側は証人として喜多義憲氏(元北海道新聞ソウル特派員)、吉方べき氏(言語心理学者、ソウル在住)と北星学園大学関係者1人の計3人を申請する、と小野寺信勝弁護団事務局長が法廷で明らかにした。一方、被告側は櫻井氏について1~2人、新潮社は1人(編集者)、ワックは2人(社長と研究者)、ダイヤモンド社はなし、との予定を示した。

次回の口頭弁論が10月に設定されていたため、証人尋問の日どりが決まるのは早くてもその日ではないかとみられていた。ところが、この日、櫻井氏側から提出された準備書面に対し、植村氏側は、すでに主張と反論は十分に尽くしたとして「同書面への反論はしない(必要ない)」と応対したため、岡山忠弘裁判長は次回弁論予定を取りやめ、証人尋問の日程の話し合いに一気に進んだ。原告側はこれまでずっと迅速な審理を求めてきた。この日の応対もその考えに沿うものだった。一方、被告側は書面提出に手間取るなど、ゆっくりペースだったから、急転直下の決定には肩透かしを食らったのではないか。
2月16日の証人尋問は朝から夕方までの終日行われる。証人の陳述をめぐる主尋問と反対尋問がぶつかり合い、大詰めの緊迫した対決と応酬の場面となる。1日では終わらずさらに期日が追加されることも予想されるが、ともかく証人尋問期日が確定したため、判決の時期も見えてきた。小野寺事務局長は口頭弁論後の報告集会で、「順調にいけば、来年5~6月に最終準備書面提出(最終弁論)、夏季休暇明け(9月ころ)に判決となるかもしれない」との見通しを示した。

この日正午の札幌の気温は24度。汗ばむほど穏やかな秋日和だった。午後3時30分開廷、同50分閉廷。弁護団席には原告側17人、被告側7人が座った。
傍聴券を手に入れるための行列には70人が並んだが、定員(71人)には満たなかった。抽選なしは札幌訴訟では昨年4月の第1回以来初めて。岡山裁判長が次回10月の弁論を取りやめたことについて、「傍聴席のみなさんは(その日も)適宜、集会を開いてください」と語りかけると、ほぼ満席の傍聴席に笑いが巻き起こる一幕もあった。

裁判の後の報告集会は午後5時から7時過ぎまで、北海道自治労会館で開かれた。上田文雄弁護士(「支える会」共同代表、前札幌市長)のあいさつの後、弁護団報告(小野寺事務局長)と植村隆さんの「夏の講演ツアー」報告、田中宏・一橋大名誉教授の講演「アジアと日本が共存するには―ー繰り返される差別の源流をさぐる」があった。詳報は後日掲載。また、灘中学校の教科書採択への攻撃に反対し、同校の姿勢に連帯するアピールを採択した。

【写真】上=入廷する植村さんと弁護団、下=報告集会(左)と田中宏さん
photo by Kazuhiro ISHII






























灘中問題でアピール

9月8日に開いた植村札幌訴訟報告集会で、つぎのアピールが採択されました。アピールは、植村裁判を支える市民の会事務局が起案し、集会で読み上げて説明した後、参加者の拍手で採択されました。
全文を掲載します。


歴史教科書採択にかかわる灘中学校への

バッシングに反対し、

灘中学校の姿勢に連帯するアピール


 私立灘中学校・高等学校(神戸市)が、中学校の歴史教科書『ともに学ぶ人間の歴史』(学び舎)をめぐって、「日本会議」系と思われる右翼グループから、不当な攻撃を受けています。学園の自治、教育の自由を脅かす、危機的な状況は他校にも広がる可能性があり、3年前、北星学園大学に対して行われたバッシングとも似た様相を示しています。
 私立である同校の教科書採択は、毎回、検定済教科書の中から担当教科の教員たちが相談して候補を絞り、最終的には校長を責任者とする採択委員会で決定しています。『ともに学ぶ人間の歴史』は2015年からの新規参入ですが、同校のルールに従い公正に決められ、16年度から使用しています。担当教員たちは、同書が歴史の基本である「読んで考えること」に主眼を置いていることや、執筆者が現場を知る教員・元教員であること等を評価したそうです。しかし、同書の採択が決まった15年末から、政治的圧力や匿名の誹謗中傷が多数寄せられはじめました。
ネット上でも公開されている和田孫博校長による論稿「謂れのない圧力の中で──ある教科書の選定について──」では、灘校を襲ったバッシングと煽動者の調査・分析が綿密になされており、それらの詳細を知ることができます。例えば、教科書採択後のある会合で、自民党の県会議員から「なぜあの教科書を採用したのか」と詰問されたことや、灘校OBの自民党衆議院議員から電話がかかり、「政府筋からの問い合わせなのだが」と断った上で同様の質問を投げかけてきたことが述べられています。
和田校長は、この自民党衆院議員に対して「検定教科書の中から選択しているのになぜ文句が出るのか分かりません。もし教科書に問題があるとすれば文科省にお話し下さい」と返答したそうですが、それもそのはず、国立や私立学校の教科書の採択の権限は校長にあり、直近の15年度検定に合格した同書を学校が採択したことに何ひとつ問題などありません。にもかかわらず、現在まで同校には、「「学び舎」の歴史教科書は「反日極左」の教科書であり、将来の日本を担っていく若者を養成するエリート校がなぜ採択したのか? こんな教科書で学んだ生徒が将来日本の指導層になるのを黙って見過ごせない。即刻採用を中止せよ」「OBだが今後寄付はしない」等といったほぼ同文のハガキが200枚以上、散発的に寄せられているとのことです。
和田校長の調査によって、誹謗中傷の煽動者は、日本会議とも関係の深い自称「近現代史研究家」水間政憲氏であることが明らかにされました。水間氏は自身のブログ上で「学び舎」の教科書を採択した学校を名指し、各校に対して、抗議の「緊急拡散」を呼びかけており、そこに掲載された抗議文例や「指南」は、実際、灘校に寄せられたハガキの文面とほぼ同一のものだといいます。
このようにネット上で広く誹謗中傷を呼びかける手法は、朝日新聞元記者の植村隆氏や北星学園大学が日本軍「慰安婦」問題をめぐって受けたバッシングと同様のものであり、私たちは、仮想空間で膨れ上がる一方的な他者への排撃や不寛容さ、反知性主義の噴出を見過ごすわけにはいきません。
さらに、同校が誹謗中傷のターゲットとされた要因のもうひとつには、和田校長も指摘するとおり、『産経新聞』(2016319日、1面)の「慰安婦記述 三十校超採択̶――「学び舎」教科書 灘中など理由非公表」という見出し記事の影響もあるようです。そこからは、思想的背景にとどまらず、フジ・サンケイグループ傘下の「育鵬社」が発行する『新しい日本の歴史』に対し、いわゆる進学校を中心に採択が進んだ「学び舎」の教科書への危機意識も読み取れます。
和田校長をはじめ、灘中学校教職員のみなさんの教科書採択に関わる誠実な対応と、理不尽なバッシングに屈せず教育者として教育の自由、学問の自由を堅持する揺るぎない姿勢と見識に深い感銘を覚えるとともに、それらの自由を侵害し、教育現場を萎縮させるいかなる圧力にも断固として反対することを表明します。

201798日 
植村裁判札幌訴訟 第9回口頭弁論報告集会 参加者一同

2017年9月4日月曜日

口頭弁論は終盤に!

9~10月の裁判日程は次の通りです。
裁判はいよいよ終盤の大詰めにさしかかっています。
傍聴と集会参加をよろしくお願いします。

■札幌訴訟第9回口頭弁論=9月8日(金)午後3時半、札幌地裁
 報告集会=午後5時、北海道自治労会館(北区北6条西7丁目)
 講演・田中宏氏(一橋大名誉教授、マケルナ会呼びかけ人)
 「アジアと日本が共存するには――」

■東京訴訟第10回口頭弁論=10月11日(水)、午後3時、東京地裁
  報告集会=午後4時、参議院会館講堂
    講演・楊井人文氏(弁護士、日本報道検証機構代表理事)

■札幌訴訟第10回口頭弁論=10月13日(金)、午後3時半、札幌地裁
※口頭弁論は進行協議(非公開)に切り替わりました。傍聴はありません。
 報告集会は、午後6時30分から開催します。
 報告集会=午後5時→6時30分、高教組会館、講演・高嶋伸欣氏


2017年9月3日日曜日

朝日新聞社への訴訟

ほとんど報道されていないことだが、いま朝日新聞社は、慰安婦報道をめぐって3つの団体から訴えを起こされている。いずれも朝日新聞の慰安婦報道は「誤報」だとし、人格権や、知る権利、日本と日本人の名誉が傷つけられた、などと主張している。
いずれの団体も、従軍慰安婦が存在した事実を否定しようとする「歴史修正主義」勢力と密接な関係を持っている。「朝日新聞を糺す国民会議」弁護団のひとり高池勝彦氏は、植村裁判では櫻井よしこ氏の弁護人をつとめている。これまでの判決はすべて原告が敗訴しているが、上級審が「朝日バッシング」にどう答えるか、注目される。
3つの訴訟の概要と進行状況は次の通り。


「朝日新聞を糺す国民会議」による訴訟

=朝日新聞の誤報によって人格権や名誉権を毀損されたとして、2万5千人が原告となって朝日新聞社を訴えた。「チャンネル桜」や「頑張れ日本!全国行動委員会」が主導し、朝日新聞東京本社と大阪本社前で毎週、街宣活動をしているグループだ。口頭弁論は2016年3月17日の第3回で打ち切られ、結審した。原告は裁判官忌避や弁論再開を申し立てたが、いずれも却下された。判決は2016年7月28日(木)午後3時から東京地裁103号法廷で言い渡され、原告の請求を棄却した。原告は控訴人を57人に絞り込んで控訴した。控訴審判決は、2017年9月29日に言い渡される。

1審原告敗訴、朝日勝訴 (2016.7.29付、朝日新聞記事) 
慰安婦報道訴訟、朝日新聞社勝訴 「記事、名誉毀損に当たらぬ」 東京地裁
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「国民の名誉が傷つけられた」とし、渡部昇一名誉教授ら国内外の2万5722人が朝日新聞社に謝罪広告や1人1万円の慰謝料を求めた訴訟の判決で、東京地裁(脇博人裁判長)は28日、原告の請求を棄却した。原告は控訴する方針。
対象は、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など、1982~94年に掲載された計13本の記事。原告側は「日本国民の国際的評価を低下させ、国民的人格権や名誉権が傷つけられた」と訴えた。
判決は、記事は旧日本軍や政府に対する報道や論評で、原告に対する名誉毀損(きそん)には当たらないとした。報道によって政府に批判的な評価が生じたとしても、そのことで国民一人一人に保障されている憲法13条の人格権が侵害されるとすることには、飛躍があると指摘した。また、掲載から20年以上過ぎており、仮に損害賠償の請求権が発生したとしてもすでに消滅している、とも述べた。
朝日新聞社広報部は「弊社の主張が全面的に認められた、と受け止めています」との談話を出した。

原告は東京高裁に控訴、9月29日に判決予定
原告は1審敗訴後に控訴人を57人に絞り込んで東京高裁に控訴した。
控訴審第1回は2017年2月21日、第2回は6月2日、第3回は7月21日に開かれ、結審した。原告側が求めていた証人尋問の申請は1審と同様に退けられた。
判決は9月29日(金)午前11時、東京高裁101号法廷で言い渡される予定。



「朝日新聞を正す会」による訴訟

=朝日新聞の慰安婦問題の誤報で「知る権利」が侵されたなどとして、480人余が朝日新聞社を相手取り訴えた。2016年6月24日に結審し、9月16日に原告は敗訴。二審の東京高裁も2017年3月1日に控訴を棄却した。

1審原告敗訴、朝日勝訴(2016.9.17付、朝日新聞記事)
慰安婦報道巡り、本社勝訴の判決 東京地裁
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「知る権利を侵害された」として、購読者を含む482人が朝日新聞社に1人あたり1万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は16日、原告の請求を棄却した。北沢純一裁判長は「記事は特定の人の名誉やプライバシーを侵害しておらず、原告は具体的な権利侵害を主張していない」などと述べた。原告側は控訴する方針。
対象は、慰安婦にするために女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言記事など。判決は、新聞社の報道内容について「表現の自由の保障のもと、新聞社の自律的判断にゆだねられている」と指摘。「一般国民の知る権利の侵害を理由にした損害賠償請求は、たやすく認められない」と述べた。
朝日新聞広報部は「弊社の主張が全面的に認められた、と受け止めています」との談話を出した。

控訴審でも原告敗訴、朝日勝訴 (2017.3.2付、朝日新聞記事)
慰安婦報道巡り、二審も朝日新聞社勝訴 東京高裁判決
朝日新聞の慰安婦に関する報道で「知る権利を侵害された」として、東京都や山梨県などに住む238人が朝日新聞社に1人あたり1万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(野山宏裁判長)は1日、原告の控訴を棄却した。「記事は特定の人の名誉やプライバシーを侵害していない」などとして原告の請求を棄却した昨年9月の一審・東京地裁判決を支持した。
訴えの対象は、慰安婦にするため女性を無理やり連行したとする故吉田清治氏の証言などの朝日新聞記事。
この日の判決は「記事への疑義を速やかに検証し報道することは、報道機関の倫理規範となり得るが、これを怠ると読者や一般国民に対して違法行為になるというには無理がある」などと述べた。朝日新聞社広報部は「一審に続いて弊社の主張が全面的に認められた、と受けとめています」との談話を出した。

原告は上告、今後の予定は不明(2017.9.3現在)

「朝日新聞を正す会」による甲府訴訟
「朝日新聞を正す会」の呼びかけで150人が甲府地裁に提訴した集団訴訟の第1回口頭弁論が2016年11月8日午前10時30分から、同地裁211号法廷で開かれた。この日の法廷に出たのは弁護士1人のみで、提訴時に県庁で会見した「正す会」の事務局長や埼玉県内在住の原告らの姿はなし。多数の傍聴を予想した裁判所側は10人ほどの職員を動員して警備にあたったが、行列に並んで傍聴券を受け取ったのはたった1人(朝日新聞甲府総局長)、記者席に座ったのはたった2人だった 
判決は20171127日(火)午後115分、甲府地裁211号法廷で言い渡される予定。


いわゆる「朝日・グレンデール訴訟」

=在米日本人ら2500人が、「朝日が慰安婦問題の誤報を国際的に拡散させたことから米国のグレンデールという町などで慰安婦像が建立され、日本と日本人の名誉が傷つけられた」などとして朝日新聞社を訴えた。日本会議系の人々が支援している。2016年12月22日まで9回の口頭弁論が開かれ、2017年4月27日、東京地裁522号法廷で判決が言い渡された。
原告側側は控訴した。控訴審第1回は10月26日午後2時、東京高裁809号法廷で開かれる。控訴人の人数は62人に絞り込まれ、このうち在外原告は26人。グレンデール市近郊に住み、市議会で慰安婦像設置に反対したことで「侮辱され損害を受けた」などと訴えて筆頭原告となっていた在米日本人の作家・馬場信浩氏ら2人が、控訴を取り下げた。その間の経緯は馬場氏のフェイスブックに書かれている。慰安婦像をめぐって「いじめがあったかどうか」で見解の相違があったとのこと。

1審原告敗訴、朝日勝訴
2017.4.28付、朝日新聞記事)

原告の請求棄却、朝日新聞社勝訴 
慰安婦報道巡る名誉毀損訴訟 東京地裁
 朝日新聞慰安婦報道で誤った事実が世界に広まり名誉が傷つけられ、また米グレンデール市に慰安婦像が設置されて在米日本人が市民生活上の損害を受けたなどとして、同市近郊に住む在米日本人を含む2557人が朝日新聞社に対し損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、原告の請求を棄却した。佐久間健吉裁判長は、記事は名誉毀損(きそん)にも在米日本人らへの不法行為にもあたらない、と判断した。原告側は控訴する方針。
 訴えの対象は「慰安婦にするため女性を無理やり連行した」とする吉田清治氏の証言に関する記事など朝日新聞記事49本と英字版記事5本。佐久間裁判長は判決で「記事の対象は旧日本軍や政府であり原告ら現在の特定個人ではない。問題となっている名誉が原告ら個人に帰属するとの評価は困難」とし、「報道で日本人の名誉が傷つけられた」とする原告の主張を退けた。
 また、報道機関の報道について「受け手の『知る権利』に奉仕するもので、受け手はその中から主体的に取捨選択し社会生活に反映する」と位置づけた。
 それを踏まえて「記事が、国際社会などにおける慰安婦問題の認識や見解に何ら事実上の影響も与えなかったということはできない」とする一方で、「国際社会も多元的で、慰安婦問題の認識や見解は多様に存在する。いかなる要因がどの程度影響を及ぼしているかの具体的な特定は極めて困難」と指摘。そのうえで、在米の原告が慰安婦像設置の際に受けた嫌がらせなどの損害については「責任が記事掲載の結果にあるとは評価できない」と結論づけた。
 朝日新聞慰安婦報道をめぐっては、三つのグループが朝日新聞社に対し集団訴訟を起こした。いずれも東京地裁や高裁の判決で請求が棄却されている。
     ◇
 判決は、吉田証言などを取り上げた朝日新聞の報道が海外で影響を与えたかについても言及した。
 原告側は裁判で、慰安婦問題について日本政府に法的責任を認めて賠償するよう勧告した国連クマラスワミ報告(96年)や、歴史的責任を認めて謝罪するよう求めた米国の下院決議(07年)が、朝日の慰安婦報道の影響によるものと主張した。
 これについて判決は、クマラスワミ報告での慰安婦強制連行に関する記述は吉田証言が唯一の根拠ではなく、元慰安婦からの聞き取り調査もその根拠であることや、クマラスワミ氏自身、「朝日が吉田証言記事を取り消したとしても報告を修正する必要はない」との考えを示している、と認定。米下院決議については、決議案の説明資料に吉田氏の著書が用いられていないことも認定した。
 また原告は、「朝日新聞が80年代から慰安婦に関する虚偽報道を行い、92年の報道で、慰安婦と挺身(ていしん)隊の混同や強制連行、慰安婦数20万人といったプロパガンダを内外に拡散させた」などと主張した。この点について判決は、韓国においては「慰安婦の強制連行」が46年から報じられた▽45年ころから60年代前半までは「挺身隊の名のもとに連行されて慰安婦にされた」と報道された▽「20万人」についても70年には報道されていた、と認めた。

■判決理由要旨
 朝日新聞の慰安婦報道をめぐり、米国・グレンデール市近郊に住む日本人らが損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が27日に言い渡した判決理由の要旨は次の通り。
     □
 1 在米原告らを除く原告らの名誉毀損(きそん)にかかる請求について
 不法行為としての名誉毀損(きそん)が成立するためには、問題となっている名誉、すなわち、品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価が特定の者に帰属するものと評価することができ、かつ、その特定の者についての名誉が被告の表現行為によって低下したと評価できることが必要である。
 本件各記事の対象は、旧日本軍ひいては大日本帝国ないし日本政府に関するものであり、原告らを始めとする現在の特定個々人を対象としたものではない。また、日本人としてのアイデンティティーと歴史の真実を大切にし、これを自らの人格的尊厳の中核に置いて生きている日本人という原告らのいう日本人集団の内包は主観的であって、原告らのいう日本人集団の外延は不明確であり、原告らのいう日本人集団自体ひいてはその構成員を特定することができない。したがって、本件で問題となっている名誉が原告ら個々人に帰属するものと評価することは困難であり、原告ら個々人についての国際社会から受ける社会的評価が低下したと評価することもまた困難である。
 2 在米原告らの名誉毀損にかかる請求について
 本件各記事の掲載は、在米原告らの名誉を毀損するとはいえず、在米原告らとの関係で我が国民法709条及び同710条所定の不法行為を構成しない。したがって、法の適用に関する通則法22条1項により、米国法を検討するまでもなく、在米原告らは、被告に対して米国法に基づく損害賠償その他の処分の請求をすることができない。
 3 在米原告らの一般不法行為にかかる請求について
 報道機関による報道が、さまざまな意見、知識、情報を広く情報の受け手に対して提供することを目的とし、実際においてもそのような機能を果たしていることに加え、クマラスワミ報告の内容等の各認定事実をも考慮すると、被告の本件各記事掲載が、原告がいう国際社会、具体的には国連関係機関、米国社会や韓国社会などにおける慰安婦問題にかかる認識や見解あるいはその一部に対し、何らの事実上の影響をも与えなかったということはできない。しかしながら他方で、吉田証言がいわゆる従軍慰安婦問題にかかる国際世論に対していかなる影響を及ぼしたのかに関して原告らとは異なる見方があること等の各認定事実を考慮すると、国際社会でのいわゆる従軍慰安婦問題にかかる認識や見解は、原告がいう内容のものに収斂(しゅうれん)されているとまではいえず、多様な認識や見解が存在していることがうかがえる。そして、それら認識や見解が形成された原因につき、いかなる要因がどの程度に影響を及ぼしているかを具体的に特定・判断することは極めて困難であるといわざるを得ない。しかも、在米原告らに対する侮辱、脅迫、いじめや嫌がらせ等の行為は特定の者による行為であるところ、当該行為者は人として自由な意思に基づき自らの思想信条を形成し、また行動する存在であって因果の流れの一部として捉えることができるものではない。在米原告らの具体的被害の法的責任を被告の本件各記事掲載行為に帰せしめることはできない。

2017年9月2日土曜日

各紙が産経問題報道

植村隆さんがきのう(9月1日)、産経新聞に訂正を求めて東京簡裁に調停を申し立てたことについて、各紙が電子版と本紙で報じています。産経新聞もきちんと記事にしています。

産経新聞
見出し:
元朝日記者・植村氏、調停申し立て
記事:
慰安婦報道をめぐる産経新聞のコラムに誤りがあったとして、元朝日新聞記者の植村隆氏(59)が1日、産経新聞社に訂正広告の掲載などを求める調停を東京簡裁に申し立てた。コラムはジャーナリスト、櫻井よしこ氏の「美しき勁き国へ」(平成26年3月3日付)。産経新聞社広報部は「申立書が届いていない現時点でのコメントは差し控えます」としている。

北海道新聞、毎日新聞、東京新聞、琉球新報ほか(電子版)=いずれも共同記事
見出し:
慰安婦報道 元朝日の植村隆氏、産経に訂正求める調停
記事:
元朝日新聞記者で慰安婦報道に関わった植村隆氏(59)が1日、産経新聞に掲載されたジャーナリスト桜井よしこ氏のコラムに誤りがあるとして、産経新聞社に訂正広告の掲載を求める調停を東京簡裁に申し立てた。
植村氏は1991年、慰安婦として韓国で初めて名乗り出た女性の記事を執筆。桜井氏は2014年3月3日付の産経新聞1面で、この女性について「東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」と指摘した。
産経新聞社広報部は「申立書が届いていないのでコメントは差し控える」としている。(共同)

朝日新聞(デジタル版)
見出し:
慰安婦報道巡り産経新聞に訂正求め申し立て 元朝日記者
記事:
経新聞の事実に反する記事で名誉を傷つけられたとして、元朝日新聞記者の植村隆・韓国カトリック大客員教授が1日、産経新聞社に訂正を求める調停を東京簡裁に申し立てた。
記事は2014年3月3日付産経新聞に掲載されたジャーナリスト櫻井よしこ氏のコラム記事「美しき勁(つよ)き国へ 真実ゆがめる朝日報道」。櫻井氏は、韓国人元慰安婦の金学順(キムハクスン)さんのことを植村氏が朝日記者時代の1991年8月に朝日新聞で報じたことを紹介したうえで「金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」と記した。
しかし金さんが91年12月に東京地裁に提訴した際の訴状に、そうした記述はない。植村氏は「訴状にないことを、あたかも訴状にあるかのように書いて、私の記事を批判している」と述べた。
植村氏は昨年7月から産経新聞社に訂正を求めてきたが、拒否する回答書が今年5月に送られてきたため、調停を申し立てたという。産経新聞社広報部は「申立書が届いていない現時点でのコメントは差し控えます」とのコメントを出した。(編集委員・北野隆一

2017年9月1日金曜日

産経新聞は訂正を!

櫻井コラムは「フェイクニュースの類」

植村さんが東京簡裁に「調停」申し立て


産経新聞が一面に掲載した櫻井よしこ氏のコラムに誤りがあるのに訂正に応じないとして、植村隆さんが91日、記事の訂正を求める調停を東京簡裁に申し立てました。

金学順さんの訴状にないことを櫻井氏は書いた

問題になっているのは、産経新聞が201433日付けの一面で掲載した櫻井よしこ氏の「美しき勁き国へ『真実ゆがめる朝日新聞』」と題するコラムです。その中で、櫻井氏は元慰安婦の金学順さんについて「東京地裁に裁判を起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたと書いている」と書いていますが、金さんの訴状にはそうした記述はまったくないのです。

植村さんは記者会見で、「『訴状にない』ことを、あたかも「訴状にある」かのように書いて、私の名誉を毀損し、故金学順さんの尊厳を冒涜している」と述べ、櫻井コラムと産経新聞の対応について「ウソに基づいたフェイクニュースの類。明らかなルール違反で、情報の改ざんです」と厳しく批判しました。

訂正を拒否するなら裏付け資料を提出せよ

櫻井氏本人も、2016422日の札幌訴訟の第一回期日後の記者会見では、「訴状にそれが書かれていなかったことについては率直に改めたい」と述べていました。その後も訂正がないため、植村さんは同年6月に内容証明で訂正を要求しました。しかし、産経新聞は「重要な点は、訴状にそのとおりの表現で明記されているかどうかではない」として応じていません。それどころか、「当社は、各種資料からも、『金学順さんが家族による人身売買の犠牲者であること』は明確に裏付けられていると認識しております」と主張しています。

これに対し、植村さんの代理人である神原元弁護士は、当時の新聞記事や聞き取り調査などの金学順さんの証言を列挙したうえで「『家族による人身売買』を裏付けるような資料は見当たりません」と述べ、産経側が訂正を拒否し続けるなら、その裏付けとなる『各種資料』をすべて証拠として提出するよう求めました。

「一発でレッドカードの記事ですね」

民事調停は、裁判官と調停委員が双方の言い分を聴いた上で,公正な判断のもとに調整する手続き。裁判の判決と異なって、双方の合意が必要になります。

記者会見で、なぜ裁判ではなく調停を申し立てたのかという質問に対して、植村さんは「誤りを訂正するという当然のことを求めているので、裁判以前の問題だと思うから」と答えました。また、金さんの訴状に問題の部分が記載されていないことを確認したY紙記者が、産経側の対応について「サッカーでいえば一発でレッドカードですね」と発言。植村さんも「その通り。『訴状によると』という原稿を書いている司法記者の皆さんなら、この問題の重みがわかると思う」と応じる一幕もありました。
(T.M記)

「調停申立書」全文は記録サイト「植村裁判資料室」に収録 こちら



記者会見する植村さんと神原元弁護士
(9月1日、東京・霞が関の司法記者クラブで)
今回の申立ては、慰安婦問題についての論争ではありません。訴状に書いてあるのか、ないのか、という極めて客観的な事実確認の問題なのです。速やかに確認をしていただき、「訴状にはそうした情報はありませんでした」という趣旨の訂正をして欲しいということだけです。
いま世の中では、フェイクニュースという言葉が流布しております。ウソを基にしたニュースということです。この櫻井氏の記述も、その類ではないでしょうか。しかし、私はそれを看過するわけにはいきません。

【記者会見で読み上げた植村さんの声明】

私が書いた慰安婦問題の記事(1991年8月11日付朝日新聞大阪本社版社会面=「週刊金曜日」抜き刷り版のp24)について、2014年3月3日付の産経新聞のコラム記事「真実ゆがめる朝日報道」(筆者は櫻井よしこ氏)は、明らかに事実ではない情報を基に、私を批判しております。これは私の名誉を著しく傷つけるものです。今回の調停申立ては、この櫻井氏のコラム記事を掲載した新聞社に、訂正を求めるものです。

この産経新聞の記事で、櫻井氏は、「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている。植村氏は彼女が人身売買の犠牲者であるという重要な点を報じず、慰安婦とは無関係の『女子挺身隊』と慰安婦が同じであるかのように報じた。それを朝日は訂正もせず、大々的に紙面化、社説でも取上げた。捏造を朝日は全社挙げて広げたのである」と書いています。

この櫻井氏の書いた訴状のくだりの部分、つまり「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」とありますが、訴状にはそのようなことは全く書かれていません。訴状には慰安婦になった経緯について、こうあります。

《 原告金学順(以下、「金学順」という。)は、一九二三年中国東北地方の吉林省で生まれたが、同人誕生後、父がまもなく死亡したため、母と共に親戚のいる平壌へ戻り、普通学校にも四年生まで通った。母は家政婦などをしていたが、家が貧乏なため、金学順も普通学校を辞め、子守りや手伝いなどをしていた。金泰元という人の養女となり、一四歳からキーセン学校に三年間通ったが、一九三九年、一七歳(数え)の春、「そこへ行けば金儲けができる」と説得され、金学順の同僚で一歳年上の女性(エミ子といった)と共に養父に連れられて中国へ渡った。トラックに乗って平壌駅に行き、そこから軍人しか乗っていない軍用列車に三日間乗せられた。何度も乗り換えたが、安東と北京を通ったこと、到着したところが、「北支」「カッカ県」「鉄壁鎭」であるとしかわからなかった。「鉄壁鎭」へは夜着いた。小さな部落だった。養父とはそこで別れた。金学順らは中国人の家に将校に案内され、部屋に入れられ鍵を掛けられた。そのとき初めて「しまった」と思った。》

訴状には金学順さんが「人身売買の犠牲者である」と断定するような記述はありません。櫻井氏の書いたような、「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」という記載は、見当たらないのです。

つまり「訴状にない」ことを、あたかも「訴状にある」かのように書いて、私の記事を批判しているのです。それは故金学順さんの尊厳を冒涜し、名誉を毀損することです。本人が言ってないことを、言ったことにしているからです。みなさんは司法担当記者をされているので、「訴状によると」という記事をよく書かれると思います。訴状にないことを、「訴状で」と書いた場合のことを想像してください。そして、当事者からその誤りを指摘された時は、どうされるでしょうか。通常はすぐに訂正を出すと思います。「訴状で」として、訴状にないことを書くのは、明らかにルール違反です。それは、情報の改ざんです。

今回の申立ては、慰安婦問題についての論争ではありません。訴状に書いてあるのか、ないのか、という極めて客観的な事実確認の問題なのです。速やかに確認をしていただき、「訴状にはそうした情報はありませんでした」という趣旨の訂正をして欲しいということだけです。しかし、その前提情報が削除された場合、櫻井氏の主張が説得力をもつのか、どうか。櫻井氏、産経新聞、読者の皆さんにもう一度ご判断いただければということも願っております。

この訴状は、アジア女性基金のデジタル記念館で一般公開もされています。誰でも簡単に見られるものです。


この事実の間違いについて、私は櫻井氏らを訴えた訴訟の第1回口頭弁論が2016年4月22日に札幌地裁であった際、記者会見で、指摘しました。同じ日に櫻井氏は札幌で開いた記者会見で、「訴状にそれが書かれていなかったということについては率直に私は改めたいと思います」と語っておられています。また、ご自身が訴状を持っていることや再度確認するとも表明されていました。そうした事実は、デジタルの「産経ニュース」(2016年4月25日付)で報じられています。お手元にその抜粋を配布しました。この「産経ニュース」は現在もネットで見られます。

しかし、その後も、訂正されませんでした。このため、私は代理人を通じて、①この櫻井氏のコラム記事の訂正②産経新聞が私の札幌訴訟について報じた記事で、賠償金額を間違えたことの訂正――の二つの訂正を要求しました。産経は②については2017年4月8日付社会面で、訂正しましたが、①の櫻井のコラム記事については、いまだに訂正を出していません。

産経新聞は2015年2月23日付の記事(筆者、秦郁彦氏)でも、私に関して事実誤認の報道をしました。これについて、代理人を通じて、訂正要求をしましたところ、同年6月8日付紙面に「おわび」が掲載され、訂正されました。配布した資料のとおりです。この件の経緯については、「週刊金曜日」抜き刷り版のp44~p47に詳しく書いております。

私としては一刻も早く、このような訂正を櫻井氏の記事についても、実行して欲しいと思います。もとより、この記事は私の名誉を毀損するものですが、私としては、訂正されれば、それで終わりにしようと思っています。別に産経新聞から、損害賠償金をいただこうと考えているわけではないのです。新聞社としての基本的なルール、事実に基づいて記事を書くようにして欲しいというだけであります。

いま世の中では、フェイクニュースという言葉が流布しております。ウソを基にしたニュースということです。この櫻井氏の記述も、その類ではないでしょうか。しかし、私はそれを看過するわけにはいきません。

皆さん、想像してください。もし、皆さんが他者から、「虚偽事実」あるいは「改ざんされた根拠」に基づいて非難されたら、どう思われますか。それを新聞の一面で書かれたら、どうされますか。それを考えてみてください。言論は自由だ、と思います。私を批判することも、もちろん自由です。しかし、「事実に基づかない根拠」で批判をしないでいただきたい。報道や論評は、事実に基づいて欲しいと思います。それが報道機関、ジャーナリストのルールだと思います。

2017年8月29日火曜日

新春コンサート案内









政治風刺コントで知られるパフォーマー松元ヒロさんと、鍵盤でいのちを語るピアニスト崔善愛さんが、植村さんを支援しよう! とコラボする新春トークコンサートです。
主催=植村訴訟東京支援チーム
日時=2018年1月6日(土)開演午後2時
会場=成城ホール(小田急成城学園前、徒歩5分)
料金=前売り2,500円、当日3,000円、ペア券4,000円(前売りのみ)、学生1,000円
【お問い合わせ、チケット申し込み】
日本ジャーナリスト会議:03-3291-6475(月水金午後)
植村訴訟東京支援チーム:042-387-1662(10:00-17:00)
cumconcert@yahoo.co.jp



2017年8月22日火曜日

夏の講演ツアー終了

8月4日にスタートした植村さんの全国講演ツアーは、8月22日、愛知県蒲郡市での講演ですべての日程を終了しました。会場に足を運んでいただき、熱心に耳を傾けてくださった全国各地のたくさんの方々、ありがとうございました。会場での拍手、質問、激励の声、そしてアンケートに書き込まれたさまざまな思いに、植村さんを支援する輪の広がりを実感します。そして、植村さんは今年の夏もまた、大きな勇気と力をみなさまからいただきました。ありがとうございました。(植村裁判を支える市民の会事務局)

各地の講演のうち、福井、長崎、人吉、岡山、蒲郡(愛知私教連)のレポートと会場アンケート(一部)はこのブログに、日付順に掲載してあります。
◇福井=8月5日付◇長崎=8月9日付◇人吉=8月17日付◇岡山、蒲郡=8月22日付

愛知私教連での講演

植村さんの夏の講演ツアーの締めくくりは、愛知私教連(愛知私立学校教職員組合連合)の夏期合宿に招かれて行いました。植村さんは、慰安婦報道だけてなく、現在進行形の灘中バッシングも取り上げ、「歴史の記憶をねじ曲げようとするバッシングは植村一人でなく、皆さんの隣で今も続いている」と訴えました。私立学校の教員ら100人以上の参加者は、2時間近く熱心に耳を傾けました。慰安婦報道のわい曲、北星学園バッシングへの経緯なども強い関心を集めたようです。講演の後、横田正行委員長が「植村さんの本を読んで、今の日本でこんな事が起きているのかと本当に衝撃を受けました」と声を高め、「植村さんの闘いを今後も全面支援したい」と心強い宣言をしました。 

岡山での講演会感想

8月4日にスタートした植村さんの「全国講演ツアー2017夏」は、いよいよ大詰め。8月19日広島、20日岡山の講演会を終え、22日の愛知・蒲郡を残すだけとなりました。<訂正■昨21日付記事に日程の誤りがありました>

岡山市の岡山県立図書館(2階デジタル情報センター)で行った講演会「言論萎縮をぶっとばせ――バッシングからみえてきたこと」の会場アンケートをご紹介します。お名前、性別、年齢は略します。

▼お人柄が非常に誠実な方だと思います。支援の輪が広がり、力強く思われたことでしょう。今の社会、いつ私や私の知人にもネット被害に合うかもしれません。ねばり強い対処の仕方を教えて頂き、ヒントをいただきました。正しいことはきちんと伝えていかなければと強く思いました。

▼貴重なお話しをありがとうございました! 私も「慰安婦はなかったんだ」と思うところでした、「朝日新聞だから間違っている」みたいな。そうではない。「慰安婦はいた」は事実ですし(元日本兵が証言している)、皇軍は侵略行為をしてしまった、そのことは忘れてはいけないと思う。

▼とてもよい講演会で、参加してよかったです。聞き取りやすくて、勉強になりました。

▼今日はお疲れさまでした。他から聞いていた話とは違い、真実のお話が聞けてとても勉強になりました。ありがとうございました。

▼「偏見や憎悪をかき立てられることがないように」。 まさに、それをきちんと、どの年代層にも定着させていきたいですね。 ひとつ気になるのは、韓国の若者たちに対し、それに近い働きかけや教育が行われていることはないのか?ということです。 また教えていただけたら、と思います。

▼権力に媚びたり、すり寄ったりする報道関係者も多い中で、脅迫や圧力に屈しない植村さんの反骨精神や、ジャーナリストとして真実を追求する使命感の強さには、ただただ敬服するばかりです。「売国奴」「国賊」などという言葉で、植村さんだけでなく、ご家族までバッシングしていた人々の行いが、全く理解できません。歴史の汚点ときちんと向き合い、反省すること、自国に対して批判すべきところはきちにと批判することこそが、真の愛国者がすべきことであり(ドイツ人の、ナチスやヒトラーに対する態度がいい例です)過去の過ちをなかったことにする、認めない、というのは単なる幼稚な自己愛、自己保身にしかすぎないと思います。共謀罪が施行され、テレビでも政権批判の部分はカットされ(←ネット情報)、言論委縮のムードがますます強くなっていますが、そのような状況で自分に何ができるのか…。せめて、メディア・リテラシーをしっかりと身に付け、情報をうのみにせず(操作されている可能性があるので)、常に自分の頭で物事を考え、疑問を持ち続ける姿勢を失わないでいきたいと思います。


画像の一部(お名前部分)を加工してあります
▼2015年の日韓合意について、何故あれだけ韓国の人たちが反発するのかよくわからなかったのですが、植村さんのお話を聞いてよくわかるようになりました。中国や韓国の問題というのは、近くの国ですが、あまりよくわからないことが多いので、私ももっと勉強してみたいと思いました。それと卑劣なバッシングが今でも続いていると思いますが、是非絶対負けないで下さい。多くの方たちが、植村さんを応援しています。

▼五十数年にわたって、欠かさず朝日新聞を購読していますが、最近、自主規制というか、委縮している感じを受けます(一時ほどではありませんが)。健全なジャーナリズムとしての「精確さ」は絶対必要ですが、私が朝日新聞に期待するのは「時代に先駆ける先進性」です(むずかしいでしょうが)。屈しない。闘い続ける植村さんを、心から尊敬し、応援します。ともにがんばりましょう!!

▼植村隆さんへ。つらい話を、話していただいて、ありがとうございます。 記事とは関係ない娘さんのことはつらいです。ともに生きていくために、正しい情報を手にして、アジアの人とつながっていきます。毎日を誠実に生き、自分さえよかったらいいという生き方をしない。これをしていると孤立するとアドラー心理学の本にありました。誠意をもって生きていく。

▼過去を正しく学び、認識し、慰安婦の方々に心からの謝罪をすることでしか、アジアの中での未来はない。平和と民主主義を守るために、いつでも力(微力 汗)が出せるようにアンテナを張り続けていこうと思います。今、青木理さんの「日本会議の正体」を読んでいます。 植村さん、応援しています! 今日は、よいお話しが聴けて、心が平穏です♡ ありがとうございました。

▼偏見や憎悪からくる人権侵害のこわさがすごく伝わってきました。それに負けないきぜんとした態度が大事であること、その姿勢(熱い思い)が植村さんから感じられました。ありがとうございました。

▼植村バッシングの(他のいろいろな所への)根っこは「歴史をねじまげようとする考えの人々」なのですね。そのことがよくわかりました。安倍総理の考えはやはり危険だとあらためて認識しました。歴史の事実を日本の若者にきちんと伝えることが大切。意識してそのことにとりくみたいと思います。

▼今、私は外国人に日本語を教えるボランティアをしています。アジアの国々と関係なしには日本は生きていけないのに~。 安倍政権は本当に日本をわるくしてしまった。


講演会場で植村さんと参加者のみなさん



2017年8月17日木曜日

人吉での講演会感想

8月4日にスタートした植村さんの全国講演ツアー。前半は、福井、金沢、富山、長崎、福岡、熊本、人吉の6県7市を駆け巡りました。9日間で計8回の講演とブックトークの集い! 超過密スケジュールでしたが、どの会場も植村さんの訴えに熱心に耳を傾ける人たちでいっぱいでした。植村さんはいったん札幌に戻り、19、20日に広島、岡山市で行う講演で夏のツアーをしめくくる予定です。

8月12日に熊本県人吉市の人吉東西コミュニケーションセンターで行った講演「言論萎縮をぶっとばせ!! 今、日本民主主義が危ない」の会場アンケートを以下に紹介します。

▽今の日本の民主主義が危ない状況が今日のおはなしでもよく分かりました。全部つながっているのですね。安倍政権により、日本は本当に危ない方向に行っていると思います。私たちの力でこれを是非覆していきたいと思います。(70代女性)
▽大変良い講演でした。李哲の友人として救援運動をしてきましたが、40数年たってもまだ解決していません。一つのデッチ上げが人の一生をかけた闘いになるんです。私も最後まで彼と行動を共にしたいと思っています。(60代男性)
▽直接、ご本人さんから話が聞けて良かった。やっぱり迫力が違います。やさしい笑顔ながら力強さが伝わりました。(80代男性)
▽真実に忠実に向きあうジャーナリストの魂に敬服しました。情熱的で精力的な話に共感を覚えました。事の本質をしっかりと見極めることの大切さを学びました。今後の活動を支援したいと思います。大変良い企画でした。(60代男性)
▽言論弾圧の実態がリアルに伝わってきました。購入した3冊の本をまず読了し行動に移したい。(80代男性)
▽私立灘中に圧力の記事を今朝新聞で読み、今の森友や加計問題と同質のものを感じた。日本会議系でしょうか? 校長はよくぞ同人誌に書かれたと思う。社会で、もっともっと真実とは何か、歴史認識(事実をもとに)、教育の中で明らかにし、論議をどんどんしていくことが必要だと思う。あった事をなかったことにはできない。 (女性)
▽とてもよく分かりました。といっても自分の勉強不足でもっと勉強しなければと思います。マスコミについては植村さんの言われたとおり、本当の声が届いていない、出されていないと思います。少々イライラしているところです。小さな声でも大事にされる、そういう世の中になってほしいと思います。(70代女性)
▽戦争はしてはいけないですね。子ども、女性が最も悲惨な被害を受けます。言論の自由、表現の自由は人としての当然の権利でしょうが、なんでも言いたいことを言っていいのか~と考えさせられます。娘さんは頑張られました。立派でしたね。活字、映像などから、いろいろな情報を受けます。日常、いつも批判的に対応することは難しいです。考えさせられました。ありがとうございました(女性)
▽ジャーナリズムの右傾化には目に余るものがあることに怒りを感じていますが、その本質とねらいが明確に分かりました。こうした傾向に抗して闘うことの必要性を強く感じます。(70代男性)
▽「言論萎縮」を許してはならない!似たようなことがわが町でも起きている。「正義」は必ず勝たねばならない。民主主義は闘わないと勝ち取れないことを学んだ。(60代男性)
▽よくわかりました。ただ高齢者の私には社会にスピードが早すぎます。(80代男性)
▽白いものを白、黒いものを黒といえない世の中になってきているような。戦後、民主主義になったのに最近また右寄りになってきて恐怖心がわいてきている。慰安婦問題に関しても、なぜこんなに「臭いものに蓋」を閉めるように認めないのか? 事実を新しい世代に伝えないのか? 今の政権に不満です。(女性)
▽ジャーナリズムについてよく理解できました。日本の民主主義をいい方向にもっていけるように望みます。(50代男性)
▽毎日、新聞、テレビを見るたびに腹がたつニュースばかりです。正しい者がバカを見る世の中です。自民党政治が続く限り、子どもや孫に申し訳ない気持でいっぱいです。選挙の大事さ、大切さを強く感じるのは私だけでしょうか?言いたいことが言える世の中、正義が通用する世の中を早く作りたい。植村隆さんに感謝します。(70代男性)
▽大変意義のあるお話でした。朝日新聞阪神支局襲撃事件も解決していない現実を思い出しました。(70代男性)
▽植村さんを孤立させてはならない、と弁護士のみなさん、市民有志のみなさんが立ち上がったことに「民主主義は死んでいない」と思う。歴史の事実を書き換えようとする勢力に私たちは負けない。植村さんが負けない人で嬉しいです。(女性)
▽植村先生、生の声が聴けて感謝します。あらためて民主主義を考えさせられました。ありがとうございました。(60代男性)


人吉市では日刊「人吉新聞」ががんばっている。植村講演会は予告記事が掲載された(左)。人口3万3000の同市はいまも昭和の雰囲気を残していて、講演会のあとの交流会場はその名も「昭和」という酒場だった。「打撃の神様」川上哲治さんの出身地でも有名。

人吉新聞は、植村さんの講演会開催を8月18日付2面で報じた。(写真下)




2017年8月10日木曜日

灘中攻撃事件に思う

これは北星・植村バッシングの再来だ!

神戸の灘中学校が右翼勢力から有形無形の圧力と攻撃を受けていたことが、ネット上で話題になっている。同校が使っている歴史教科書が反日極左だ、と右翼が騒いだのである。8月2日にジャーナリストの津田大介さんがツイッターで紹介し、すぐに拡散が始まった。神戸新聞や毎日新聞も後追いする形で報じた。 
津田さんは、「灘校の校長が歴史教科書採用を巡って同校に有形無形の『圧力』がかかっていることを具体的に開示、かつ極めて冷静に分析し、いまこの国で起きている『歴史情報戦』がどのような段階にあるのかがわかる声明文。全国民必読の文章では。立派な校長である」とツイッターで書いた。

津田さんが紹介したのは、灘中学高校の和田孫博校長の文章である。その文章は、「謂れのない圧力の中で ~ある教科書の選定について」と題したA4判4ページにわたる長文である。声明文ではなく、研究者グループの定期刊行物に発表した所感というべき文章で、インターネットにもリンクがあり、公開されている(こちら)。
和田校長が克明に書いている経過は、要約するとこうである。
学校への圧力は、ある会合で地元の県会議員が校長を詰問したことから始まった。同校出身の自民党衆院議員による電話質問が続いた。そして、多数の抗議ハガキ投書が届くようになった。連動するように、産経新聞やチャンネル桜、月刊誌WiLLが、抗議行動を煽るようなキャンペーンを繰り広げた。
一部メディアが報じ、それに煽られた人たちが脅迫めいた圧力と攻撃を加える風景は、北星学園と植村隆さんへのバッシングの再現そのものである。リベラルを標的にして萎縮効果を狙うという朝日新聞叩きにも構図がよく似ている。

和田校長は、「この葉書は未だに散発的に届いており、総数二百枚にも上る。届く度に同じ仮面をかぶった人たちが群れる姿が脳裏に浮かび、うすら寒さを覚えた」と書いている。そして、灘中への攻撃は正体不明の人間や組織ではなく、公然と名乗る人物の呼びかけによって行われていることも明らかにしている。

その人物は、自称近現代史研究家の水間政憲氏だという。水間氏は「WiLL」2015年6月号に「エリート校麻生・慶應・灘が採用したトンデモ歴史教科書」という20ページにおよぶ記事を掲載し、CSテレビ「文化チャンネル桜」でも同様の内容を話した。さらに「水間条項」という自身のブログで、具体的な文例を複数示して抗議のハガキを送るように呼びかけ、送り先(採択校)の学校名、住所、理事長名、校長名、電話番号を列挙した。

和田校長はこれらの経過を振り返り、「検定教科書の選定に対する謂れのない投書に関しては経緯がほぼ解明できたので、後は無視するのが一番だと思っているが、事の発端になる自民党の県会議員と衆議院議員からの問い合わせが気になる」とし、「多様性を否定し一つの考え方しか許されないような閉塞感の強い社会」の到来に警鐘を鳴らしている。和田校長は灘中、灘高から京大に進み、卒業後は灘中高で英語を教えてきた。この文章から、教育者としての強い信念と気骨が伝わってくる。実名で公表するその勇気。東の前川さん(前文科次官)、そして西の和田さん。拍手を送ります。

ところで、右翼が騒ぐこの教科書とは、どういうものか。
「学び舎」という出版社(東京・立川市)が発行している「ともに学ぶ人間の歴史――中学社会/歴的分野」である。A4、オールカラー、324ページの大型教科書である。重量は865グラム、ズシリと重い。文部科学省公認の検定教科書である。灘中のほかに麻生、慶応、筑波大付属駒場、学芸大附属など有名私立、国立中学校など約40校で採用されているという。執筆陣は「子どもと学ぶ歴史教科書の会」の会員32人で、中学・高校の教員とOBが多い。2015年秋に初めて検定を通り、翌年度から採択が始まった。

では、この教科書で慰安婦はどう扱われているのか。
詳細を知りたくて、アマゾンから現物を取り寄せてみた。すると意外なことに、「慰安婦」という言葉は目次にも索引にもなく、本文にわずかに1カ所あるだけなのである。それも、地の文ではなく、1993年の河野官房長官談話の一部要約(281ページ)に「調査の結果、長期に、広い地域に、慰安所が設けられ、数多くの慰安婦が存在したことが認められる。朝鮮半島からの慰安婦の募集、移送などは、総じて本人たちの意思に反して行われた」とあるのみ。しかも、この記述には※印の注記(「現在、日本政府は慰安婦問題について、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような資料は発見されていない、との見解を表明している」)が付けられている。注記の不自然なレイアウトからすると、検定作業の段階で付記の追加が求められたことがうかがわれる。

いったい右翼が標的としなければならない記述はどこにあるのだろうか。
ページを何度めくってみてもわからない。何か別の理由があるのかもしれない。そういえば、和田校長は、こんなことも書いている。
「産経新聞がこのことを記事にしたのには、思想的な背景以外に別の理由もありそうだ。フジサンケイグループの子会社の「育鵬社」が『新しい日本の歴史』という教科書を出している。新規参入の「学び舎」の教科書が予想以上に多くの学校で、しかも「最難関校と呼ばれる」(産経新聞の表現)私学や国立大付属の中学校で採択されたことに、親会社として危機感を持ったのかもしれない」。
なあんだ、古手の出版社の親会社が新参のライバル出版社をいじめているということなのか。せこい話ではないか。

さて、これからは余談である。この教科書にざっと目を通してたいへん驚いたことがある。有名進学受験校が競って採用するからには、受験用知識とノウハウがてんこ盛りの教科書かと思いきや、そうではなく、従来の教科書とはまったくちがったコンセプトで作られているのである。太古から現代までを連続した通史として書くのではなく、歴史上の大きなできごとを時代順に見開き2ページにおさめる構成で、写真や囲み記事もふんだんに使われており、ビジュアルな歴史図鑑といったほうがいい。目次から、各記事の見出しをいくつかピックアップしてみよう。
▽家族と別れる防人の歌……奈良時代の庶民▽岩に刻んだ勝利……土一揆と戦乱▽裏長屋に住む棒手振……江戸の町の暮らし▽バスチーユを攻撃せよ……フランス革命▽政治が売り切れた……江戸幕府の滅亡▽民衆がつくった憲法……五日市憲法▽土地を奪われた朝鮮の農民……韓国併合▽パンを、平和を、土地を……ロシア革命と平和▽独立マンセー……民族運動の高まり▽始まりは女一揆……米騒動と民衆運動▽鉄道爆破から始まった……日本の中国侵略▽餓死、玉砕、特攻隊……戦局の転換▽荒れ狂う鉄の暴風……沖縄戦▽にんげんをかえせ……原爆投下▽もう戦争はしない……日本国憲法▽ゴジラの怒り、サダコの願い……原水禁運動▽国会を包囲する人波……日米安保条約の改定▽問い直される戦後……日中国交正常化と東アジア▽平和という言葉……人間らしく生きる

ここで際立つのは、歴史的な事実を無味乾燥に羅列するのではなく、その時代を生きた民衆、市民、弱者に重きを置く視線と平和主義を貫く姿勢である。いずれも、老境のわが記憶の中ではすっかり風化してしまった史実ではあるが、右翼にとっては子どもたちに知ってほしくない史実にちがいない、だから執拗に騒ぐのだろう。それにしてもこの教科書のどこが反日極左なのか。騒いでいる人たちの読解力の低さに呆れるしかない。そして、灘中への圧力と攻撃は、北星・植村バッシング、朝日叩きと同じ根っこでつながっている、と思う。
(文・北風三太郎)

以下は和田孫博校長の文章の全文引用です
書式は変えてます
本年とあるのは2016年、昨年は2015年です
**********************************************


謂れのない圧力の中で
―ある教科書の選定について
和田孫博

本校では、本年四月より使用する中学校の歴史教科書に新規参入の「学び舎」による『ともに学ぶ人間の歴史』を採択した。本校での教科書の採択は、検定教科書の中から担当教科の教員たちが相談して候補を絞り、最終的には校長を責任者とする採択委員会で決定するが、今回の歴史教科書も同じ手続きを踏んで採択を決めており、教育委員会には採択理由として「本校の教育に適している」と付記して届けている。
ところが、昨年末にある会合で、自民党の一県会議員から「なぜあの教科書を採用したのか」と詰問された。こちらとしては寝耳に水の抗議でまともに取り合わなかったのだが、年が明けて、本校出身の自民党衆議院議員から電話がかかり、「政府筋からの問い合わせなのだが」と断った上で同様の質問を投げかけてきた。今回は少し心の準備ができていたので、「検定教科書の中から選択しているのになぜ文句が出るのか分かりません。もし教科書に問題があるとすれば文科省にお話し下さい」と答えた。「確かにそうですな」でその場は収まった。
しかし、二月の中頃から、今度は匿名の葉書が次々と届きだした。そのほとんどが南京陥落後の難民区の市民が日本軍を歓迎したり日本軍から医療や食料を受けたりしている写真葉書で、当時の『朝日画報』や『支那事変画報』などから転用した写真を使い、「プロデュース・水間政憲」とある。それに「何処の国の教科書か」とか「共産党の宣伝か」とか、ひどいのはOBを名乗って「こんな母校には一切寄付しない」などの添え書きがある。この写真葉書が約五十枚届いた。それが収まりかけたころ、今度は差出人の住所氏名は書かれているものの文面が全く同一の、おそらくある機関が印刷して(表書きの宛先まで印刷してある)、賛同者に配布して送らせたと思える葉書が全国各地から届きだした。文面を要約すると、

「学び舎」の歴史教科書は「反日極左」の教科書であり、将来の日本を担っていく若者を養成するエリート校がなぜ採択したのか?こんな教科書で学んだ生徒が将来日本の指導層になるのを黙って見過ごせない。即刻採用を中止せよ。

というものである。この葉書は未だに散発的に届いており、総数二百枚にも上る。届く度に同じ仮面をかぶった人たちが群れる姿が脳裏に浮かび、うすら寒さを覚えた。
担当教員たちの話では、この教科書を編集したのは現役の教員やOBで、既存の教科書が高校受験を意識して要約に走りすぎたり重要語句を強調して覚えやすくしたりしているのに対し、歴史の基本である読んで考えることに主眼を置いた教科書、写真や絵画や地図などを見ることで疑問や親しみが持てる教科書を作ろうと新規参入したとのことであった。これからの教育のキーワードともなっている「アクティブ・ラーニング」は、学習者が主体的に問題を発見し、思考し、他の学習者と協働してより深い学習に達することを目指すものであるが、そういう意味ではこの教科書はまさにアクティブ・ラーニングに向いていると言えよう。逆に高校入試に向けた受験勉強には向いていないので、採択校のほとんどが、私立や国立の中高一貫校や大学附属の中学校であった。それもあって、先ほどの葉書のように「エリート校が採択」という思い込みを持たれたのかもしれない。
三月十九日の産経新聞の一面で「慰安婦記述三十校超採択̶̶「学び舎」教科書灘中など理由非公表」という見出しの記事が載った。さすがに大新聞の記事であるから、「共産党の教科書」とか「反日極左」というような表現は使われていないが、この教科書が申請当初は慰安婦の強制連行を強くにじませた内容だったが検定で不合格となり、大幅に修正し再申請して合格したことが紹介され、本年度採用校として本校を含め七校が名指しになっていた。本校教頭は電話取材に対し、「検定を通っている教科書であり、貴社に採択理由をお答えする筋合いはない」と返事をしたのだが、それを「理由非公表」と記事にされたわけである。尤も、産経新聞がこのことを記事にしたのには、思想的な背景以外に別の理由もありそうだ。フジサンケイグループの子会社の「育鵬社」が『新しい日本の歴史』という教科書を出している。新規参入の「学び舎」の教科書が予想以上に多くの学校で、しかも「最難関校と呼ばれる」(産経新聞の表現)私学や国立大付属の中学校で採択されたことに、親会社として危機感を持ったのかもしれない。
しかしこれが口火となって、月刊誌『Will』の六月号に、近現代史研究家を名乗る水間政憲氏(先ほどの南京陥落写真葉書のプロデューサー)が、「エリート校―麻布・慶應・灘が採用したトンデモ歴史教科書」という二十頁にも及ぶ大論文を掲載した。また、水間政憲氏がCSテレビの「日本文化チャンネル桜」に登場し、同様の内容を講義したという情報も入ってきた。そこで、この水間政憲氏のサイトを覗いてみた。すると「水間条項」というブログページがあって、記事一覧リストに「緊急拡散希望《麻布・慶應・灘の中学生が反日極左の歴史教科書の餌食にされる;南京歴史戦ポストカードで対抗しましょう》」という項目があり、そこを開いてみると次のような呼びかけが載っていた。

私学の歴史教科書の採択は、少数の歴史担当者が「恣意的」に採択しているのであり、OBが「今後の寄付金に応じない」とか「いつから社会主義の学校になったのか」などの抗議によって、後輩の健全な教育を護れるのであり、一斉に声を挙げるべきなのです。
理事長や校長、そして「地歴公民科主任殿」宛に「OB」が抗議をすると有効です。

そして抗議の文例として「インターネットで知ったのですが、OBとして情けなくなりました」とか「将来性ある若者に反日教育をする目的はなんですか。共産党系教科書を採用しているかぎり、OBとして募金に一切応じないようにします」が挙げられ、その後に採択校の学校名、学校住所、理事長名、校長名、電話番号が列挙されている。本校の場合はご丁寧に「講道館柔道を創立した柔道の神様嘉納治五郎が、文武両道に長けたエリート養成のため創設した学校ですが、中韓に媚びることがエリート養成になるような学校に変質したようです。嘉納治五郎が泣いていますね……」という文例が付記されている。あらためて本校に送られてきた絵葉書の文面を見ると、そのほとんどがこれらの文例そのままか少しアレンジしているだけであった。どうやらここが発信源のようだ。
この水間氏はブログの中で「明るい日本を実現するプロジェクト」なるものを展開しているが、今回のもそのプロジェクトの一環であるようだ。ブログ中に「1000名(日本みつばち隊)の同志に呼び掛け一気呵成に、『明るい日本を実現するプロジェクト』を推進する」とあり、いろいろな草の根運動を発案し、全国にいる同志に行動を起こすよう呼びかけていると思われる。また氏は、安倍政権の後ろ盾組織として最近よく話題に出てくる日本会議関係の研修などでしばしば講師を務めているし、東日本大震災の折には日本会議からの依頼を受けて民主党批判をブログ上で拡散したこともあるようだが、日本会議の活動は「草の根運動」が基本にあると言われており(菅野完著『日本会議の研究』扶桑社)、上述の「日本みつばち隊」もこの草の根運動員の一部なのかもしれない。
このように、検定教科書の選定に対する謂れのない投書に関しては経緯がほぼ解明できたので、後は無視するのが一番だと思っているが、事の発端になる自民党の県会議員や衆議院議員からの問い合わせが気になる。現自民党政権が日本会議を後ろ盾としているとすれば、そちらを通しての圧力と考えられるからだ。ちなみに、県の私学教育課や教育委員会義務教育課、さらには文科省の知り合いに相談したところ、「検定教科書の中から選定委員会で決められているのですから何の問題もありません」とのことであった。そうするとやはり、行政ではなく政治的圧力だと感じざるを得ない。
そんなこんなで心を煩わせていた頃、歴史家の保坂正康氏の『昭和史のかたち』(岩波新書)を読んだ。その第二章は「昭和史と正方形̶̶日本型ファシズムの原型̶̶」というタイトルで、要約すると次のようなことである。

ファシズムの権力構造はこの正方形の枠内に、国民をなんとしても閉じこめてここから出さないように試みる。そして国家は四つの各辺に、「情報の一元化」「教育の国家主義化」「弾圧立法の制定と拡大解釈」「官民挙げての暴力」を置いて固めていく。そうすると国民は檻に入ったような状態になる。国家は四辺をさらに小さくして、その正方形の面積をより狭くしていこうと試みるのである。

保坂氏は、満州事変以降の帝国憲法下の日本では、「陸軍省新聞課による情報の一元化と報道統制」「国定教科書のファシズム化と教授法の強制」「治安維持法の制定と特高警察による監視」「血盟団や五・一五事件など」がその四辺に当たるという。
では、現在に当てはめるとどうなるのだろうか。第一辺については、政府による新聞やテレビ放送への圧力が顕在的な問題となっている。第二辺については、政治主導の教育改革が強引に進められている中、今回のように学校教育に対して有形無形の圧力がかかっている。第三辺については、安保法制に関する憲法の拡大解釈が行われるとともに緊急事態法という治安維持法にも似た法律が取り沙汰されている。第四辺に関しては流石に官民挙げてとまではいかないだろうが、ヘイトスピーチを振りかざす民間団体が幅を利かせている。そして日本会議との関係が深い水間氏のブログからはこれらの団体との近さがにじみ出ている。もちろん現憲法下において戦前のような軍国主義やファシズムが復活するとは考えられないが、多様性を否定し一つの考え方しか許されないような閉塞感の強い社会という意味での「正方形」は間もなく完成する、いやひょっとすると既に完成しているのかもしれない。

2017年8月9日水曜日

長崎での講演会感想

植村さんの講演会が8月7、8日の両日、長崎県教育文化会館で行われました。同じ市での連日開催は初めて。主催は、「ピースウィーク2017」実行委員会(7日)と「平和を守る長崎女たちの会」実行委員会(8日)でした。2つの講演会に参加した方から、怒りのあふれる感想が寄せられました。

言いがかり、いちゃもん、災難を
孤軍奮闘する植村さんだけに
負わせていいのか!

次から次に押し寄せてくる言いがかり・いちゃもんに、家族ぐるみで生死をかけた防衛戦を強いられた植村隆記者の災難は、本来だれが引き受けるべきものだったのか、これが最大の問題だと思った。一般論として、ひとつの新聞記事に読者から「いちゃもん」が来たとき、対応すべき責任者は誰か、その記事を書いた記者個人か、それとも新聞社か。植村記者はそのいちゃもんを個人で引き受け、まさに孤軍奮闘しているのだが、聞けば聞くほど腹が立ってきた。引き受け手は会社側じゃないか。社の何人もの目を通って公になった正真正銘の記事じゃないか、読者との関係では記事内容の正誤を含めて会社が全責任を負うというのが当然ではないか。植村さんは歴史修正主義を相手にしていると語るが、無理やり押さえつけている怒りが植村さんの健康を損なうことがないように祈るばかりだ。(S・F記)