2017年9月1日金曜日

産経新聞は訂正を!

櫻井コラムは「フェイクニュースの類」

植村さんが東京簡裁に「調停」申し立て


産経新聞が一面に掲載した櫻井よしこ氏のコラムに誤りがあるのに訂正に応じないとして、植村隆さんが91日、記事の訂正を求める調停を東京簡裁に申し立てました。

金学順さんの訴状にないことを櫻井氏は書いた

問題になっているのは、産経新聞が201433日付けの一面で掲載した櫻井よしこ氏の「美しき勁き国へ『真実ゆがめる朝日新聞』」と題するコラムです。その中で、櫻井氏は元慰安婦の金学順さんについて「東京地裁に裁判を起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたと書いている」と書いていますが、金さんの訴状にはそうした記述はまったくないのです。

植村さんは記者会見で、「『訴状にない』ことを、あたかも「訴状にある」かのように書いて、私の名誉を毀損し、故金学順さんの尊厳を冒涜している」と述べ、櫻井コラムと産経新聞の対応について「ウソに基づいたフェイクニュースの類。明らかなルール違反で、情報の改ざんです」と厳しく批判しました。

訂正を拒否するなら裏付け資料を提出せよ

櫻井氏本人も、2016422日の札幌訴訟の第一回期日後の記者会見では、「訴状にそれが書かれていなかったことについては率直に改めたい」と述べていました。その後も訂正がないため、植村さんは同年6月に内容証明で訂正を要求しました。しかし、産経新聞は「重要な点は、訴状にそのとおりの表現で明記されているかどうかではない」として応じていません。それどころか、「当社は、各種資料からも、『金学順さんが家族による人身売買の犠牲者であること』は明確に裏付けられていると認識しております」と主張しています。

これに対し、植村さんの代理人である神原元弁護士は、当時の新聞記事や聞き取り調査などの金学順さんの証言を列挙したうえで「『家族による人身売買』を裏付けるような資料は見当たりません」と述べ、産経側が訂正を拒否し続けるなら、その裏付けとなる『各種資料』をすべて証拠として提出するよう求めました。

「一発でレッドカードの記事ですね」

民事調停は、裁判官と調停委員が双方の言い分を聴いた上で,公正な判断のもとに調整する手続き。裁判の判決と異なって、双方の合意が必要になります。

記者会見で、なぜ裁判ではなく調停を申し立てたのかという質問に対して、植村さんは「誤りを訂正するという当然のことを求めているので、裁判以前の問題だと思うから」と答えました。また、金さんの訴状に問題の部分が記載されていないことを確認したY紙記者が、産経側の対応について「サッカーでいえば一発でレッドカードですね」と発言。植村さんも「その通り。『訴状によると』という原稿を書いている司法記者の皆さんなら、この問題の重みがわかると思う」と応じる一幕もありました。
(T.M記)

「調停申立書」全文は記録サイト「植村裁判資料室」に収録 こちら



記者会見する植村さんと神原元弁護士
(9月1日、東京・霞が関の司法記者クラブで)
今回の申立ては、慰安婦問題についての論争ではありません。訴状に書いてあるのか、ないのか、という極めて客観的な事実確認の問題なのです。速やかに確認をしていただき、「訴状にはそうした情報はありませんでした」という趣旨の訂正をして欲しいということだけです。
いま世の中では、フェイクニュースという言葉が流布しております。ウソを基にしたニュースということです。この櫻井氏の記述も、その類ではないでしょうか。しかし、私はそれを看過するわけにはいきません。

【記者会見で読み上げた植村さんの声明】

私が書いた慰安婦問題の記事(1991年8月11日付朝日新聞大阪本社版社会面=「週刊金曜日」抜き刷り版のp24)について、2014年3月3日付の産経新聞のコラム記事「真実ゆがめる朝日報道」(筆者は櫻井よしこ氏)は、明らかに事実ではない情報を基に、私を批判しております。これは私の名誉を著しく傷つけるものです。今回の調停申立ては、この櫻井氏のコラム記事を掲載した新聞社に、訂正を求めるものです。

この産経新聞の記事で、櫻井氏は、「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている。植村氏は彼女が人身売買の犠牲者であるという重要な点を報じず、慰安婦とは無関係の『女子挺身隊』と慰安婦が同じであるかのように報じた。それを朝日は訂正もせず、大々的に紙面化、社説でも取上げた。捏造を朝日は全社挙げて広げたのである」と書いています。

この櫻井氏の書いた訴状のくだりの部分、つまり「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」とありますが、訴状にはそのようなことは全く書かれていません。訴状には慰安婦になった経緯について、こうあります。

《 原告金学順(以下、「金学順」という。)は、一九二三年中国東北地方の吉林省で生まれたが、同人誕生後、父がまもなく死亡したため、母と共に親戚のいる平壌へ戻り、普通学校にも四年生まで通った。母は家政婦などをしていたが、家が貧乏なため、金学順も普通学校を辞め、子守りや手伝いなどをしていた。金泰元という人の養女となり、一四歳からキーセン学校に三年間通ったが、一九三九年、一七歳(数え)の春、「そこへ行けば金儲けができる」と説得され、金学順の同僚で一歳年上の女性(エミ子といった)と共に養父に連れられて中国へ渡った。トラックに乗って平壌駅に行き、そこから軍人しか乗っていない軍用列車に三日間乗せられた。何度も乗り換えたが、安東と北京を通ったこと、到着したところが、「北支」「カッカ県」「鉄壁鎭」であるとしかわからなかった。「鉄壁鎭」へは夜着いた。小さな部落だった。養父とはそこで別れた。金学順らは中国人の家に将校に案内され、部屋に入れられ鍵を掛けられた。そのとき初めて「しまった」と思った。》

訴状には金学順さんが「人身売買の犠牲者である」と断定するような記述はありません。櫻井氏の書いたような、「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」という記載は、見当たらないのです。

つまり「訴状にない」ことを、あたかも「訴状にある」かのように書いて、私の記事を批判しているのです。それは故金学順さんの尊厳を冒涜し、名誉を毀損することです。本人が言ってないことを、言ったことにしているからです。みなさんは司法担当記者をされているので、「訴状によると」という記事をよく書かれると思います。訴状にないことを、「訴状で」と書いた場合のことを想像してください。そして、当事者からその誤りを指摘された時は、どうされるでしょうか。通常はすぐに訂正を出すと思います。「訴状で」として、訴状にないことを書くのは、明らかにルール違反です。それは、情報の改ざんです。

今回の申立ては、慰安婦問題についての論争ではありません。訴状に書いてあるのか、ないのか、という極めて客観的な事実確認の問題なのです。速やかに確認をしていただき、「訴状にはそうした情報はありませんでした」という趣旨の訂正をして欲しいということだけです。しかし、その前提情報が削除された場合、櫻井氏の主張が説得力をもつのか、どうか。櫻井氏、産経新聞、読者の皆さんにもう一度ご判断いただければということも願っております。

この訴状は、アジア女性基金のデジタル記念館で一般公開もされています。誰でも簡単に見られるものです。


この事実の間違いについて、私は櫻井氏らを訴えた訴訟の第1回口頭弁論が2016年4月22日に札幌地裁であった際、記者会見で、指摘しました。同じ日に櫻井氏は札幌で開いた記者会見で、「訴状にそれが書かれていなかったということについては率直に私は改めたいと思います」と語っておられています。また、ご自身が訴状を持っていることや再度確認するとも表明されていました。そうした事実は、デジタルの「産経ニュース」(2016年4月25日付)で報じられています。お手元にその抜粋を配布しました。この「産経ニュース」は現在もネットで見られます。

しかし、その後も、訂正されませんでした。このため、私は代理人を通じて、①この櫻井氏のコラム記事の訂正②産経新聞が私の札幌訴訟について報じた記事で、賠償金額を間違えたことの訂正――の二つの訂正を要求しました。産経は②については2017年4月8日付社会面で、訂正しましたが、①の櫻井のコラム記事については、いまだに訂正を出していません。

産経新聞は2015年2月23日付の記事(筆者、秦郁彦氏)でも、私に関して事実誤認の報道をしました。これについて、代理人を通じて、訂正要求をしましたところ、同年6月8日付紙面に「おわび」が掲載され、訂正されました。配布した資料のとおりです。この件の経緯については、「週刊金曜日」抜き刷り版のp44~p47に詳しく書いております。

私としては一刻も早く、このような訂正を櫻井氏の記事についても、実行して欲しいと思います。もとより、この記事は私の名誉を毀損するものですが、私としては、訂正されれば、それで終わりにしようと思っています。別に産経新聞から、損害賠償金をいただこうと考えているわけではないのです。新聞社としての基本的なルール、事実に基づいて記事を書くようにして欲しいというだけであります。

いま世の中では、フェイクニュースという言葉が流布しております。ウソを基にしたニュースということです。この櫻井氏の記述も、その類ではないでしょうか。しかし、私はそれを看過するわけにはいきません。

皆さん、想像してください。もし、皆さんが他者から、「虚偽事実」あるいは「改ざんされた根拠」に基づいて非難されたら、どう思われますか。それを新聞の一面で書かれたら、どうされますか。それを考えてみてください。言論は自由だ、と思います。私を批判することも、もちろん自由です。しかし、「事実に基づかない根拠」で批判をしないでいただきたい。報道や論評は、事実に基づいて欲しいと思います。それが報道機関、ジャーナリストのルールだと思います。